アパート投資における耐用年数を超えた物件のメリット・デメリット!
アパート投資における法定耐用年数の役割は、減価償却費の計算や金融機関の融資期間などに影響するため非常に重要な指標です。
耐用年数が短い中古アパートを購入すれば、短期間でより多くの減価償却費を計上できれば節税につながるというメリットがありますが、一方で金融機関の融資を受けづらいといったデメリットも存在します。
この記事では、アパート投資における耐用年数の基礎情報、耐用年数を超えた物件のメリット・デメリットや出口戦略のヒントについて解説します。
アパート投資における耐用年数の基礎情報

アパート投資における耐用年数とは、一般的に税法上で用いられる「法定耐用年数」のことを言います。
基本的にアパートの建物や設備などの資産は、経年によって劣化し価値が下がり、いずれは価値がなくなります。
これを「減価償却資産」と呼び、取得費用を税法上で定められた耐用年数(法定耐用年数)に応じて毎年「減価償却」し、その金額を「減価償却費」として経費計上していくのです。
関連記事:不動産投資の減価償却についてわかりやすく解説!節税ポイントも
法定耐用年数は、建物や設備の構造・種類によって細かく定められており、その年数によって減価償却期間も変わります。
そのため、たとえば同額で購入したアパートであっても建物の構造が異なれば、減価償却期間も異なり、必然的に減価償却費として計上できる金額も変動します。
なおアパート投資で減価償却の対象となるのは建物や附帯設備といった減価償却資産のみです。
したがって、価値が経年によって劣化しない土地は減価償却の対象外となります。
アパートの構造別耐用年数
アパートの法定耐用年数は、建物の構造によって異なります。
ここでは、一般的なアパートの構造別法定耐用年数を紹介します。
【主なアパート(建物)の構造別法定耐用年数】
◦木造:22年
◦鉄骨造(骨格材の肉厚が3mm以下の場合):19年
◦鉄骨造(骨格材の肉厚が3mmを超4mm以下):27年
◦鉄骨造(骨格材の肉厚が4mm以上):34年
◦鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造:47年
参考:国税庁『主な減価償却資産の耐用年数表』
アパート投資の法定耐用年数と使用可能年数の違い
前述した法定耐用年数は、あくまでも税法上で定められた期間であり、実際の使用可能年数ではありません。
たとえば、木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、それ以降でも賃貸アパートとして運営することは十分可能です。
ただし、建物や設備の使用可能年数は、使用頻度・使用方法・メンテナンス頻度などによって左右されます。
できるだけ長期にわたってアパート経営をおこないたい場合は、定期的なメンテナンスや計画的な大規模修繕工事の実施が必須になることを覚えておきましょう。
アパート投資で耐用年数が及ぼす影響とは

アパート投資における法定耐用年数は、主に減価償却の際に用います。また、それ以外のシーンでも利用される大事な指標です
ここではアパート投資で法定耐用年数がどのように影響するかについて解説します。
減価償却費の額が変わる(節税効果が変わる)
前述したように、アパートの建物や設備は定められた法定耐用年数に従って減価償却がおこなわれ、減価償却費が決まります。
ようするに法定耐用年数によって、経費として計上できる減価償却費が変わるのです。
当然ですが、経費として計上できる減価償却費の額が大きいほど帳簿上の利益が圧縮できるため、税金(所得税)を減らすことにつながります。
法定耐用年数が長い場合、減価償却期間も長くなるため長期にわたって減価償却費の経費計上が可能となりますが、高い節税効果は期待できません。
反対に法定耐用年数が短ければ、減価償却費を経費計上できる期間は短くなりますが、1年あたりでは減価償却費を大きく取れるため節税効果は大きくなります。
このように減価償却期間によって節税効果が変動するため、節税目的でアパート投資をおこなう場合は残存する法定耐用年数を検討したうえで物件を購入することが大事です。
関連記事:アパート投資で節税可能な税金の種類を紹介!それぞれの仕組みを解説
金融機関の融資期間が変わる
アパート投資をおこなう際は金融機関から融資を受けるのが一般的ですが、その場合は物件の耐用年数によって融資期間が変わります。
基本的に耐用年数が長ければ融資期間も長くなります。
そのため、同額のアパート物件を購入した場合でも、耐用年数が長い物件のほうが月々のローン返済額は少なくなり、それだけキャッシュフローに余裕を持たせることが可能となるのです。
なお、法定耐用年数を超えたアパートに関しては、基本的に金融機関から融資を受けるのがむずかしくなります。
なぜなら、法定耐用年数を超えた物件の評価額はゼロとみなされるからです。
関連記事:不動産投資の耐用年数オーバー物件にメリットはある?融資は可能?
また、法定耐用年数を超えた築古物件は空室率が高かったり、家賃下落が著しかったり、高額の修繕費が必要だったり、収入の減少や支出の増加が懸念されます。
このように収支が悪化しやすい物件に対して金融機関側は貸し倒れを警戒し、法定耐用年数を超えた物件への融資をおこなわないケースが多いのです。
ただし、法定耐用年数を超えた物件すべてが融資を受けられないかというとそうではありません。
金融機関によっては法定耐用年数を超えた物件への融資を積極的におこなっている場合もあるので、まずは近隣の金融機関に問い合わせてみることをおすすめします。
アパート投資で耐用年数を超えた物件を購入するメリット

ここでは、アパート投資で法定耐用年数を超えた物件を購入するにあたってのメリットを紹介します。
メリット①価格が安いため高利回りが期待できる
築年数が古く、法定耐用年数を超えている物件は価格が安くなっているため、初期費用も少なくて済み、高利回りを期待することができます。
耐用年数を超えた築古物件であっても、立地が良ければ賃貸需要が高く、安定した家賃収入を得ることも十分可能です。
ただし、築古物件は修繕費が高額になるケースも多いため、物件を購入する際は注意しましょう。
メリット② 節税対策になる
法定耐用年数を超えている物件は減価償却費の計上を大きくできるため、節税対策になりやすいのがメリットです。
通常であれば物件の法定耐用年数によって減価償却をおこないますが、耐用年数を超えた中古物件を購入した場合、「法定耐用年数 × 20%」の期間が減価償却期間となります。
たとえば、法定耐用年数22年の木造アパートの場合、「法定耐用年数22年×20%=4.4」となります。
端数は切り捨てて4年間で減価償却するため、短期間で多額の減価償却費を計上でき、結果的に大きな節税効果を見込めるのです。
ただし、上記の場合は4年を過ぎてしまうとその後は計上できる経費が減少し、税負担が増すことを念頭においておく必要があります。
アパート投資で耐用年数を超えた物件を購入する場合のデメリット

法定耐用年数を超えているアパートにはメリットがある反面、デメリットも存在します。デメリットについても把握しておきましょう。
デメリット① 減価償却期間が短い
前述したように、法定耐用年数を超えた物件は、通常の場合と比較して減価償却期間が短くなるため、節税効果も短期間で終了してしまうのがデメリットです。
特に減価償却期間が終わると計上できる減価償却費が減少し、帳簿上の黒字が増加するため結果的に所得税や住民税の負担が大きくなりキャッシュフローの悪化が懸念されます。
いわゆる「デッドクロス」状態です。
もし、節税目的で法定耐用年数を超えた物件を購入するのであれば、減価償却が終了するタイミングで物件を売却することで、デッドクロス対策につながります。
デメリット②融資がつきにくい
先に述べたように金融機関から融資を受ける場合、法定耐用年数によって融資期間が変わります。
そのため法定耐用年数を超えた物件は融資審査が通りにくくなる傾向があるため注意が必要です。
金融機関は担保価値が低いと判断した物件への融資は消極的になりやすく、融資が受けられなかったり、融資条件が厳しくなったりする可能性があります。
法定耐用年数を超えている物件の融資を受ける際は、あらかじめ不動産市場の動向や物件の状態などを確認したうえで、「融資の価値がある物件」であることをアピールする必要があります。
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耐用年数を超えた物件で融資を受ける際のポイント
法定耐用年数を超えた物件で融資を受けるためには、次のポイントに注意しましょう。
◇頭金を多く入れる
法定耐用年数を超えている物件は、頭金を多くすることで融資審査を通過しやすくなります。
頭金を多くすることで借入額が少なくなるため返済リスクを軽減でき、また金融機関は融資申し込み者の返済能力を高く評価することから融資審査に有利にはたらく可能性が高まります。
◇個人の属性を高める
融資審査では、ローン申込者の信用力や返済能力が厳しく評価されます。
そのため、ローン申込者の個人属性を高めることで、融資審査時にプラスにはたらきやすくなります。
個人属性では、安定した収入の有無や勤務先の信用性、資産状況、これまでの借入と返済の履歴などが評価の対象となるのが一般的です。
年収を短期間で増やすことはむずかしいですが、使用していないクレジットカードを解約したり、借入中のローン返済を適切におこなったり、信用度を高めるなど、個人属性を高めると良いでしょう。
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デメリット③家賃収入の減少
法定耐用年数を超えた物件の中には、空室の増加や家賃下落、修繕費の増加など、さまざまなリスクが高まりやすく、想定した家賃収入を得られない可能性があります。
特に築古物件は空室率が高くなりやすく、空室を埋めるために家賃を下げざるを得ないケースも多いです。
また購入してから高額な修繕費が必要になる場合も少なくありません。
法定耐用年数を超えた物件であっても、賃貸需要が高いエリアの好立地物件や建物や設備などの状態が良い物件を選ぶことがリスクの軽減につながるでしょう。
デメリット④流動性が低い
不動産は流動性が低い投資商品であると言われています。
実際、不動産の売却には時間がかかりますが、一棟アパートは価格が高めであるため、比較的安価な区分ワンルームマンションと比較すると売却しにくいです。
また法定耐用年数を超えた物件は、買い手がいても融資を受けられず購入できないケースも少なくありません。
法定耐用年数を超えたアパートを購入する際は、出口戦略も考慮した上で購入を検討することをおすすめします。
耐用年数を超えたアパートの出口戦略例
ここでは、法定耐用年数を超えたアパート物件の出口戦略について解説します。
◇建物を建て替える
賃貸需要が良く、安定した家賃収入が見込まれる立地であれば、アパートを立て替えることで家賃収入の向上が期待できます。
法定耐用年数を超えたアパートは、立地が良くても賃貸需要が減少したり、相場よりも低い家賃設定だったり、減収するケースも多いです。
特に家賃は一度下げてしまうと引き上げることはむずかしいです。
そこで建物を建て替え、新築アパートとしてリスタートすることで、新築プレミアムとして相場よりも高い家賃を設定することが可能です。
ただし、建て替えをおこなう場合は解体費用や建築費用のほか、入居者がいる場合は立ち退き料が必要などのデメリットもあるため注意が必要です。
◇リフォームしてアパート経営をつづける
アパートの建物の状態が悪くない場合は、必要に応じてリフォームやリノベーションをおこないアパート経営をつづけることもできるでしょう。
アパートの建て替えには、解体費や建築費など高額の費用がかかります。また入居者がいる場合は立ち退いてもらう必要があるため、立ち退き費用も発生しますし、建て替え期間中は家賃収入が途絶えてしまいます。
リフォーム・リノベーションであれば建て替えに比べて費用負担が少なく、入居者に立ち退いてもらう必要もないため、家賃収入もそのまま得られるのがメリットです。
なお、リフォームやリノベーションにかかった費用は、修繕費として経費計上、または減価償却して減価償却費として計上も可能です。
◇そのまま売却する
法定耐用年数を超えたアパートをそのまま売却することもできるでしょう。建物を解体する必要がないため、費用を節約したい場合におすすめです。
築古物件は新築や築浅物件に比べて価格が安く、入居者がいる「オーナーチェンジ物件」であれば、買い手がつく可能性も高いです。
ただし、前述したように法定耐用年数を超えた物件は金融機関の融資が付きにくいため注意しましょう。
また、価格設定及び売却を依頼する不動産会社を選ぶ際は、信頼できる会社を選択することが大事なポイントです。
◇更地として売却する・別用途で土地活用する
アパートの建物を取り壊して更地にし、売却や別の用途で土地を活用する方法もあります。
更地にすることで買い手側は解体費用を負担する必要もなく、自由に土地を活用することが可能であるため流動性も高まります。
また、所有者自身でアパート経営以外の土地活用方法(マンション経営や駐車場経営など)を選択することもできるでしょう。
ただし、更地にするためには、アパートを取り壊すための解体費や入居者がいる場合は立ち退き料が必要になるため、あらかじめコストを確認しておくことをおすすめします。
関連記事:不動産投資の成否は出口戦略で決まる!できるだけ高く売る方法とは?
まとめ
アパート投資における、法定耐用年数について解説しました。
節税目的でアパート投資をおこなう際は、減価償却期間が短くても、1年あたりにより多くの減価償却費を計上できる法定耐用年数が短めの中古アパート物件がおすすめです。
しかし、法定耐用年数が短い・超えている物件は融資期間が短かったり、融資を受けられなかったりといったデメリットもあるため注意が必要です。
また購入時だけでなく、売却する場合も同様であるため、耐用年数が短い・超えている物件を購入する際は、出口戦略もあわせて検討しておくことが必要不可欠であると覚えておくとよいでしょう。