アパート経営で損切りを検討するタイミングとは?要因や対策法を解説
アパート経営で赤字がつづくと、「このまま物件を所有すべきか、それとも損切りで売却すべきか」という決断が必要になるケースもあるでしょう。
しかし状況次第では黒字回復できる可能性もあるため、なかなか決断できず、結果的に大きな損失につながる可能性もあります。
では損失を最小限に抑えるためには、どのようなタイミングで損切りを検討すればよいのでしょうか。
今回はアパート経営の損切りについて、検討すべきタイミングや赤字になる原因とその対策方法を解説します。
アパート経営における損切りとは
「損切り」とは、投資において損失が発生している際にその投資商品を売却し、それ以上の損失を回避する目的でおこなうリスクコントロールのことです。
アパート経営における損切りは、「黒字回復が見込めない赤字が出ているアパート物件を売却する」ことを指します。
アパート経営では毎月の家賃収入からローン返済や修繕費などを支払い、残ったお金がキャッシュフローとなります。
アパートの経営状態が健全であればキャッシュフローはプラス(黒字)になりますが、なんらかの理由でキャッシュフローがマイナス(赤字)になってしまっても、ローン返済などをおこなわなければなりません。その場合は手元の資金や給与などから「手出し(持ち出し)」することになります。ようするに利益がないだけでなく、手持ちのお金も減っていくのです。
赤字による手出しが一時的なものであれば問題はありません。しかし長期にわたって赤字がつづく場合、日常生活が苦しくなったり、手元の資金が尽きてしまいローンの返済が滞ったり、最悪のケースではアパートが差し押さえられる可能性もあるのです。
アパート経営における損切は、こういった事態を避けるためにおこなわれる重要な手法のひとつとなります。
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アパート経営における損切りの主な要因
アパート経営は複数の部屋を賃貸します。そのため空室が発生した際は、区分マンション経営と比較すると空室分の家賃を補填しやすいというメリットがあります。
ではアパート経営で損切りを検討するのはどのようなケースが考えられるのでしょうか。
ここではアパート経営で損切りになる主な要因を紹介します。
空室や家賃下落による収入の減少
アパート経営の主な収入源は、入居者が支払う家賃です。そのため、なんらかの原因で家賃収入が減少してしまうと赤字になってしまいます。
そもそもアパート経営などの不動産投資は、事前に収支シミュレーションをおこない、きちんとキャッシュフローが得られることを前提におこないます。
しかし、収支シミュレーションで想定した以上の空室の増加や長期化、家賃下落が起きてしまうケースもあります。
特に空室が長期化した場合、入居者を獲得するために家賃の引き下げを仲介会社が提案する場合が多いです。それが1室だけであれば黒字挽回も可能かもしれませんが、空室が多ければ多いほど、ほかの部屋から補填するのもきびしくなってしまいます。
なお、安定したアパート経営の空室率は5%〜10%程度が理想と言われています。ただし、空室率はエリアや賃貸物件の種類(構造、築年数、規模など)によっても異なります。また一度下げた家賃を引き上げるのもむずかしいです。
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安定した家賃収入を得るためには適切な空室対策が必須であることを覚えておきましょう。
また次のケースも空室の増加や長期化につながりやすいため注意が必要です。
家賃が周辺の相場にあっていないケース
アパートの家賃は、周辺の家賃相場に沿って設定をする必要があります。周辺相場よりも家賃が高額な場合は空室につながる可能性が高くなります。
特に長期入居者が退去した場合、現況の家賃相場が下がっているケースもあるため注意が必要です。家賃は定期的に見直しをおこないましょう。
ひとつの施設に賃貸需要を依存しているケース
企業の工場や大学の周辺のアパートは、入居者ターゲットを設定しやすく、一定の賃貸需要が見込めます。しかし、その施設ひとつだけに賃貸需要を依存してしまうと工場の撤退や大学の移転などのリスクがあるため注意が必要です。
特に昨今は地方の大学キャンパスを首都圏に移転するケースが多く見られます。大学移転後、その周辺では賃貸需要が大幅に減少してしまい、空室が増え、入居付けのために家賃の引き下げを余儀なくされるでしょう。
このように、賃貸需要をひとつの施設だけに依存してしまうと、閉鎖や移転によるリスクが高くなることを覚えておきましょう。
支出の増加
支出の増加もアパート経営で赤字になりやすい要因のひとつです。
特に築年数が古くなると修繕費用は増加するのが一般的です。自然災害や機器の故障など、突発的な建物や設備の修繕費が発生するケースでは赤字になる可能性が高くなります。
こういった経年による修繕費の増加や突発的な修繕費の発生に備えて、毎月の家賃収入から修繕費の積立てなどをおこなっておくと安心です。
また火災や地震、風水害など自然災害に備えて保険に加入しておきましょう。
そのほか支出の増加で考えられるのが、金利の上昇や減価償却の終了による納税額の増加です。
金利上昇によるローン返済額の増加
金利上昇についてはアパート経営を始める際、変動金利で融資を受けた場合は金利変動に注意が必要です。ローンの返済計画を立てる際は金利の変動リスクを想定したうえで、余裕を持ったシミュレーションをおこなうとよいでしょう。
また金利上昇による急激なローン返済額の上昇を避けるためには、「5年ルール」「1.25倍ルール(125%ルール)」が設けられている金融機関を選ぶことをおすすめします。
「5年ルール」とは、金利が上昇しても5年間は返済額が据え置かれ、「1.25倍ルール(125%ルール)」は、前回の返済額の1.25倍(125%)が上限になるため、金利上昇による急激なキャッシュフローの悪化を防ぐことにつながります。
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減価償却の終了による納税額の増加
アパート経営における減価償却とは、建物や附属設備など、経年によって減っていく固定資産の価格を法定耐用年数によって分割し、一定期間にわたって毎年経費として計上する会計処理です。
減価償却をおこなっているあいだは計上できる経費が増加するため収益が圧縮され、結果的に節税につながります。しかし減価償却が終了すると経費として計上できる金額が著しく減るため節税効果が薄まり、支払う税金が大幅に増加するため要注意です。
どのタイミングで減価償却が終了するのかしっかりと把握した上で資金計画を立てましょう。
関連記事:不動産投資の減価償却についてわかりやすく解説!節税ポイントも
アパート経営で損切りを検討すべきタイミング
アパート経営で損切りを検討すべきタイミングは、以下のようなケースになります。
◦ローン返済が負担になったとき
◦手出し(持ち出し)が負担になったとき
◦損益分岐点を下回ったとき
◦周辺環境が悪化したとき
それぞれについて解説します。
ローン返済が負担になったとき
月々のローン返済の負担が大きく、キャッシュフローが悪化した場合は、損切りを検討するタイミングです。
ローン返済を滞納した場合、一括返済を求められたり、個人の信用情報に傷がつき今後の融資審査に不利となったり、現在のアパート経営や将来的な事業拡大のデメリットにつながります。
すでに手元の資金が尽き、ローン返済が滞っている場合はできるだけ早く損切りをおこなうことでダメージを最小に抑えることにつながります。
通常の売却がむずかしい場合は任意売却を検討するとよいでしょう。
アパートを差し押さえられてしまうと競売となり、自由に売却ができなくなるため注意しましょう。
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手出し(持ち出し)が負担になったとき
アパート経営で赤字がつづき、「手出し(持ち出し)」が負担になってきたら損切りを検討するタイミングです。特に手元の資金に余裕がない、または生活費が不足している場合は要注意です。
ただし、節税目的や資産形成の手段として計画的に少額の手出しをおこなっている場合はその限りではありません。
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損益分岐点を下回ったとき
損益分岐点とは、収入(家賃収入など)と支出(ランニングコスト)が同額となったポイントを指し、赤字でも黒字でもない状態を言います。
損益分岐点を上回ると黒字に、下回ると赤字ということになるため、現在の経営状況が赤字か黒字かを簡単に確認することが可能です。
損益分岐点を下げるほど利益を出しやすくなりますが、そのためには家賃収入を増やすか、支出を減らす必要があります。
現時点で損益分岐点を下回っている赤字状態の場合、家賃収入を増やす、またはコストを下げる方法がないのであれば、今後黒字回復は見込めないと判断できるため、損切りを考えるべきタイミングと言えるでしょう。
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減収となる要因が明らかになったとき
原状では収支が悪化していない場合でも、以下のようなケースでは将来的な減収を見越してアパートの売却を検討したほうがよいでしょう。
◦近隣に競合となる大きなマンションが建築される
◦近隣にある大規模商業施設が閉店する
◦近隣にある大学や工場が移転・閉鎖される
◦近隣に嫌悪施設ができる
アパートが事故物件になった
近隣に競合物件が増加すると供給過多で空室が増加しやすくなります。特に新築物件は人気が高く、家賃が同程度であれば入居付けはきびしくなるでしょう。
また入居者は居住地の利便性や安全性を重視します。近隣の大規模商業施設が閉鎖されてしまうと買い物がしにくくなり利便性が低下し、入居希望者が減ってしまう可能性があります。
前述したように賃貸需要を近隣の大学や工場だけに依存している場合は、人口が減少し賃貸需要の低下につながります。
そのほかにも、工場の建設による騒音や振動、アパート居住者の自殺や事件などがあれば退去者が出たり、新規入居者が見つかりにくくなったり、結果的に入居率が低下し家賃収入が減少するでしょう。
こういった環境の変化に関する情報をいち早く得ることができれば、赤字になる前にアパートを売却できるケースも十分考えられます。
アパート経営の損切り対策方法
ここではアパート経営で損切りしない(=安定した収益を得る)ための対策方法を解説します。
適切な空室対策をおこなう
空室リスクはアパート経営において、もっともよくあるリスクです。アパート経営は、入居者がいる限り、長期にわたって安定した収入を得ることが可能です。収支のバランスが想定どおりで、上手にコントルールできれば赤字にもなりにくいです。
しかし賃貸である以上、空室になることは避けられませんが、適切な空室対策をおこなうことで空室期間を最小限に抑えることは可能です。
効果的な空室対策をおこなうためには、まず空室の原因を見つけ出し、原因を解消できる空室対策をおこなう必要があります。
空室の原因がわかりにくいときは管理会社に相談しましょう。空室の原因を把握したたうえで具体的な対策方法の提案が期待できます。
賃貸需要が高いエリアの物件を選ぶ
アパート経営の成功は物件の立地に大きく左右されます。一般的に「好立地」と呼ばれる賃貸需要の高いエリアの物件を選ぶことで空室が発生しにくくなり、安定したアパート経営につながります。
好立地の条件はエリアや入居ターゲット層によっても異なりますが、都市部で単身者をターゲットにする場合は以下の条件を複数満たす物件を選ぶとよいでしょう。
◦最寄駅から徒歩10分圏内
◦ターミナル駅、複数路線利用可能
◦コンビニやスーパーが近い
◦飲食店が多い
◦銀行、郵便局、役所、病院などの施設が近い
こういった好立地のアパート物件は築古になっても賃貸需要が高く、また出口戦略では売却しやすいなど、さまざまなメリットが期待できます。
損害保険で修繕費を補填する
アパート経営では、地震や台風などの自然災害に備えて必要な損害保険に加入しておくのがベストです。特に火災保険は、火災だけでなく自然災害でアパートが破損した際の修繕費を補填してくれます。
地震などの災害で建物に被害があった場合、資金不足で修繕がおこなえずアパート経営を継続できないケースもあります。そんなときでも保険に加入しておくことで、必要な修繕をおこなうこともできるでしょう。
また災害以外にも盗難による損害の補償や、必要な特約をつけることで補償範囲を広くすることも可能です。
なお地震保険は火災保険と同時に加入する必要があります。地震保険単体では加入できないため注意しましょう。
アパート経営開始時に損切りのルールを決めておく
アパート経営で赤字がつづく場合、損切りが早ければはやいほど損失を最低限に抑えることができます。しかし「黒字回復」の期待を捨てられず、思い切って損切りができないケースも少なくありません。
そこで万が一赤字になったときを想定し、あらかじめ「損切りのルール」を決めておきましょう。ルールに決まりはありませんが、あまり厳しすぎては損切りのタイミングを逃がしてしまいますし、逆に緩すぎては黒字回復のチャンスを失ってしまいます。
◦毎月の持ち出しが〇万円を超えたとき
◦空室率が△△%を超えたとき
手出しの許容範囲は人それぞれのため、手元の資金の残高や目安となる空室率を参考に損切りルールを決めておきましょう。
大事なのは、自ら定めたルールに沿って損切りのタイミングを逃さないことです。
まとめ
アパート経営で赤字がつづく場合の損切りについて解説しました。
アパート経営の赤字は利益がないだけでなく、手元の資金から手出しをおこなうため、長期間赤字がつづくとダメージは蓄積される一方です。
なんとか赤字を挽回しようとしているうちに手遅れになってしまうことも多いため、損失を最小限に抑えるためにも、できるだけ早い段階で「損切り」を検討することが大事になります。
損切りを検討するタイミングはいくつかありますが、あらかじめ「損切りのルール」を決めておくと、いざというときの迅速な行動につながるでしょう。
損切りのタイミングを逃すことなく、次のステップにつなげていきましょう。